デジタルデバイスはもはや生活の一部として欠かせないものとなり、電車内はもちろん、街中を歩けば誰もがスマートフォンを見つめ、SNSやゲームに熱中する姿は日常風景と化しています。
MMD研究所の調査によれば、15歳から69歳の約7割がスマートフォン依存の傾向にあるとされ、特にSNSはストレスの大きな要因の一つとして挙げられています。ビジネスシーンにおいても、デジタル化は避けて通れない時代の流れであり、私たちはその恩恵を受けながら、日々忙しく働き続けています。
私自身も、デジタルデバイスと向き合いながら朝昼晩とてもハードに長時間労働を続ける中で、慢性的な疲労や背中の痛みに悩まされるようになりました。マッサージや温泉で一時的に回復しても、根本的な解決には至らず、心身の不調に悩まされていました。そんな時、ふとしたきっかけで家族と新潟県燕三条市にあるスノーピークのキャンプ場を訪れ、初めてのキャンプに挑戦することになりました。テント設営も料理も不慣れで、戸惑うことばかりでしたが、自然の中で体を動かし、時間を過ごすうちに、不思議と心が解放され、疲労感が軽減していくのを感じたのです。
この経験を通して、人間が本来「動的な生き物」であることを再認識しました。つまり動きがあることが本来の姿ということです。
デジタルデバイスに依存した生活は、座りっぱなしの姿勢で画面を見続けることが多く、人間の本来のプログラムとはかけ離れていると言えます。
ホテルに宿泊すれば、綺麗に整えられたベッドが用意され、すぐに温かい料理と美味しいお酒が出てきます。便利なサービスやAI家電は私たちの生活を豊かにしてくれますが、その一方で、人間が本来持っている野生の本能や自然と共存する感覚を忘れさせているのかもしれません。デジタルデバイスだらけの現代では、24時間明るい人工的な光がどこかしらにはあり、体内のリズムが狂ってしまうのです。
キャンプは、現代社会では失われつつある「手間」を魅力に感じさせてくれる貴重な体験です。「暑いから嫌だな」「準備や片付けが面倒だな」と思っている人も多いでしょう。しかし、自然の中で時間を過ごすことの利点を考えると、その労力は十分に報われます。 テントの設営、火起こし、料理など、一つ一つに時間と労力を要しますが、自然と向き合いながら自分の手で作り上げていく過程には、デジタルな世界では味わえない達成感と満足感が得られます。自然の中で過ごすことは、心身に癒しを与え、本来の自分を取り戻すための最良の方法と言えるでしょう。
疲労には、「肉体疲労」「神経疲労」「脳疲労」の3種類がありますが、現代人の多くは、デジタルデバイスの過剰な使用やストレスによって、神経疲労や脳疲労を抱えています。キャンプなどのアウトドア活動は、肉体を使うことで適度な疲労を促すと同時に、自然の風景や音、香りによって五感を刺激し、神経疲労や脳疲労を回復させてくれます。森の中で深呼吸をすると、清々しい気持ちになるのは、植物が放出する「フィトンチッド」という物質の効果です。フィトンチッドには、リラックス効果やストレスを軽減する効果、免疫力を高める効果などが認められており、心身の健康に大きく貢献します。
幸福度の高い国として知られるフィンランドでは、自然との触れ合いが健康に良い影響を与えるという研究結果が数多く報告されています。 自然の中で過ごすことでストレスホルモンが減少し、集中力や創造性が高まり、うつ病のリスクを低下させる効果も期待できるといいます。日本は、豊かな自然に恵まれた国です。 山、川、海など、身近な場所に自然を感じられる環境があります。大自然の中に身を置き、緑の香りや良い空気、焚火の動きや音、広大な山々や空を感じることで、人間の源泉が引き出され、体が整っていくのです。
たとえキャンプに行く時間や機会がなくても、日常生活の中に自然を取り入れることは可能です。 観葉植物を部屋に置いたり、ベランダでプチトマトやハーブ、野菜を育てたりするだけでも、自然のエネルギーを感じることができます。現代社会において、デジタルデバイスは必要不可欠なツールです。しかし、デジタルと自然の境界は曖昧でグラデーションしているものなので、時にはデジタルから離れて自然と触れ合う時間を設け、自然志向のライフスタイルへのシフトチェンジすると、失われた野生を取り戻すことができます。